立田敦子のカンヌ映画祭レポート2018 #06 是枝監督『万引き家族』、日本映画21年ぶりのパルムドール!

Culture 2018.05.20

 5月19日(土)に第71回カンヌ国際映画祭のクロージングセレモニー&授賞式が行われました。最高賞のパルムドールに輝いたのは是枝裕和監督の『万引き家族』。現地の批評家の間でも評判がよく、業界紙SCREENの星取りでも4点満点中3.2と監督のイ・チャンドンに続いて2番目に高い点数を得ていたこともあり、なにかしら賞に絡むことは予想されていましたが、それが最高賞という快挙を成し遂げました。社会問題を背景に人間や生活を描いた作品が多かった今年のカンヌにおいて、社会と家族とテーマに撮った『万引き家族』は、人間味にあふれたキャラクターや社会から“忘れ去られた人々“に対する慈しみと温かさをもって見つめる姿勢が、高い評価を得たといえるでしょう。

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フォトコールに登場した是枝監督と、樹木希林、リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、城桧吏、佐々木みゆ。

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『万引き家族』は6月8日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開。

©2018『万引き家族』製作委員会

 また21人の国際的な監督たちの中で、今年は3人の女性監督がノミネートされ、イタリアのアリーチェ・ロルバケル、レバノンのナディーン・ラバキーというふたりの女性監督が重要な賞を受賞しました。9人の審査員中、審査員長のケイト・ブランシェットを含む5人が女性だった今回の審査員団、やはり女性の視点は審査に影響を及ぼしたようです。

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19日の夜に開催された授賞式の様子。

 受賞のステージに上がった是枝監督は、「さすがに足が震えています。この場にいられることが本当に幸せです。そしてこの映画祭に参加するといつも思いますが、映画を作り続けていく勇気をもらいます。そして、対立している人と人を、隔てられている世界と世界を映画が繋ぐ力をもつのではないかという希望を感じます。今回みなさんにいただいた勇気と希望を、まず一足早く戻ったスタッフとキャストに分かち合いたいですし、作品が選ばれたにもかかわらずここに参加できなかったふたりの監督たちとも分かち合いたいですし、これから映画を作りここを目指す若い映画の作り手たちとも分かち合いたいと思います。ありがとうございます」とスピーチしました。

 審査員記者会見では、受賞理由について審査員長のケイト・ブランシェットが「今年は強い年。演技、撮影など総合的に素晴らしかった。選ぶにあたって気に入った作品を落とさないといけないのは辛かったし、難しかったけれど、最終的に私たちは合意しました」とコメント。審査員のメンバーであるドゥニ・ヴィルヌーヴも、「この作品は私たちに深い感動を与えてくれました。とにかく恋に落ちてしまった。上品で素晴らしくてとても深い。魂を鷲掴みにされてしまった」と絶賛しました。

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パルムドール受賞後の是枝監督会見にて。

 受賞後、パルムドールを手に登場した是枝監督は、「賞というものは目標にするものではないといつも思っています。この場所に来て、クロージングセレモニーに立てることはとても光栄なこと。ましてや最高賞をいただくというのは、僕自身のキャリアにとっても大きなステップアップとなるでしょうし、これであと20年くらいは作りたいな、という勇気をもらった気がします。」「今回の作品のカンヌでの認知と受賞によって、“家族のドラマの作家”だという捉え方が、ますます強くなってしまうかもしれませんけど、自分ではそうは思っていないので、さまざまなジャンルにチャレンジできればと思っています。自分が年齢を重ねて変化していくと、いろんな家族の形、見えてくる家族の形というのも変わってくるので、決して同じことを繰り返していくのではなくて、60代、70代になった時にまた違う“家族”のドラマが描けるのではないかと思っています。」「発見していただいたのはベネチア(映画祭)ですし、育てていただいたのはカンヌなのかなと思います。良い映画祭は若手を育てる。僕は7回呼んでいただいて、評価をいただいた回もあれば、そうでない回ももちろんありますけど、どの回も貴重な経験をさせてもらっています。韓国のイ・チャンドン、中国のジャ・ジャンクーという同時代にすごく強い作家がいて、彼らと同じ時代に映画を作れて、お互いにお互いの作品を認め合いながら、刺激し合いながら、この場に来られているのはとても恵まれているなと思います」と語りました。

 また今後の映画製作については、「口にするとなかなか実現しないものですから、あまり喋らないよういしているんですけど、一緒に映画を作らないかと言ってくれる方々が日本の外にいらっしゃるので、海外の役者たちと一緒に映画を作るというチャレンジに向かっていこうかなとここ数年思っています」と話しました。

 なお、第71回カンヌ国際映画祭の受賞リストは以下の通りです。

・パルムドール(最高賞)

『万引き家族』是枝裕和監督(日本)

・グランプリ

『Blackkklansman』(原題)スパイク・リー監督(アメリカ)

・スペシャル・パルムドール賞

『The Image Book』(英題)ジャン=リュック・ゴダール監督(フランス)

・監督賞

パヴェヴ・パヴリコウスキ監督(ポーランド)『Cold War』(英題)

・男優賞

マルチェロ・フォンテ『Dogman』(原題)マッテオ・ガローネ 監督(イタリア)

・女優賞

サマル・イェスリャーモワ 『Ayka』(原題)セルゲイ・ドボルツェボイ監督(カザフスタン)

・脚本賞(W受賞)

アリーチェ・ロルバケル for『Happy as Lazzaro』(英題)

ジャファール・パナヒ for『3Faces』(英題)

・審査員賞

『Capernaum』(原題)ナディーン・ラバキー監督(レバノン)

・カメラ・ドール

『Girl 』ルーカス・ドント監督(ベルギー)※「ある視点」部門上映作品

映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。

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